利回りの落とし穴:表面と実質の“本当の差”|I-01

不動産投資で最初に注目される数字が“利回り”です。同じ数字に見えても何を含んで計算しているかで意味が変わります。その数字がどんな条件で作られているかを見ないまま判断すると、思わぬ落とし穴になります。

目 次

結論:利回りは仕組みで差がつく数字

利回りとは、投資した金額に対して、どれだけ収益が返ってくるかを示す割合です。この利回りには「表面」と「実質」の二つがあり、費用と条件の扱いで差が生まれる数字です。

  • 表面利回り:経費ゼロ・満室想定などの見た目の数字
  • 実質利回り:運営コストなどを引いた後の現実の数字

つまり、同じ「利回り〇%」でも、どこまでの条件を含めているかで意味が変わります。これを区別して読むことが、利回りを見る最初の基準になります。

表面利回りは“前提が省かれた値”

表面利回りとは「経費ゼロ・満室想定」の理想値
・経費や空室といった前提が省略されている
・表面利回り = 実際の収益と誤解されやすい

表面利回りの計算はシンプルですが、仕組みを順番に追うと特徴がはっきりしてきます。
最初に、表面利回りがどのように算出されるのかを確認します。

年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100 = 表面利回り(%)

例:

  • 物件価格:3,000万円
  • 年間家賃収入:240万円(月20万円)

➤ 240万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 表面利回り:8%

前提条件

表面利回り8%という数字は、次のような前提で成り立っています。

  • 満室稼働想定:1年間ずっと入居者がいる
  • 物件取得費ゼロ:不動産取得税、登録免許税、仲介手数料などは考慮しない
  • 経費ゼロ:管理費、修繕費、固定資産税など含めない

実際の不動産運営では、これら前提条件が同時に成立することはありません。それでも広告で表面利回りが使われるのは、収益性を“比較しやすい指標”として並べられるためです。

表面利回りは実態より高い数字になる

前提条件でも触れたように、表面利回りは 経費や空室といった要素を一切含まない数字です。そのため、仕組みとして実態より2〜3%ほど高い数字になります。このまま物件を比較してしまうと判断を誤りやすい原因になります。
例えば、表面利回り8%と5%を並べると、見た目では「8%のほうが収益性は高い」と感じます。しかし、この段階では実際にはいくら残るのかはまだ分かりません。
収支の実態が見えてくるのは、この次で解説する実質利回りです。

実質利回りは”現実の姿を反映した値”

・実質とは、運営コストを差し引いた後の現実値
・物件価格に取得費も分母に含める
・運営の実態に近いため、比較や判断の基準になる

実質利回りは、表面利回りでは見えなかった“現実の収支”を映す指標です。不動産投資の中でも比較的取り組みやすい「一棟アパート投資」を例に、表面利回りと実質利回りの差を具体的に見ていきます。

【物件条件(満室想定)】

  • 物件価格:6,000万円(6世帯アパート)
  • 年間家賃収入:480万円(8万円×6室×12ヶ月)
  • 広告表示の表面利回り:8.0%

取得時の諸費用

まずは、“物件を買う段階”でかかる費用です。実質利回りを計算する際は、物件価格ではなく取得総額が分母 になります。

項目金額補足
物件価格6,000万円本体価格
仲介手数料200万円仲介会社への報酬
登記費用(登録免許税)80万円名義変更の手続き
不動産取得税80万円取得時に課税される税金
融資関連費用40万円事務手数料など
取得総額6,400万円物件+各諸費用
※金額は計算を分かりやすくする設定のため、実際の相場とは多少異なります。

実務では、取得時の諸費用は物件価格の 7〜10%が標準的です。融資条件・登記費用・保証料によって多少前後しますが、物件価格に約1割の初期費用が乗ると考えておくのが現実に近い数値となります。

年間運営コスト(満室想定)

次に、運営していく中で生じる代表的なコストを整理します。管理方法や築年数によって金額は変わりますが、家賃収入から差し引かれる主な項目です。

コスト項目年間金額補足
管理費48万円管理会社に委託する場合
固定資産税30万円土地・建物に課税
火災保険料12万円火災・水災への備え
修繕費(積立)40万円将来の修繕に備える積立
合計130万円
※年間金額は、実際の相場とは多少異なる場合があります。

管理費は実際に家賃の5%程度が多いですが、 計算をわかりやすくするため10%で設定しています。家賃収入からこうしたコストが差し引かれるため、表面利回りの段階では見えなかった“収支の輪郭”がここで明確になります。

実質利回りの計算

運営コストを確認したところで、ここから実際の収支に踏み込みます。実質利回りはその名のとおり、「実際の収益率」を表す数字です。表面利回りとは計算の前提がまったく違います。計算式はシンプルです。

(年間家賃収入 − 年間運営コスト) ÷ 取得総額 × 100

今回のサンプル物件で当てはめると──

  • 取得総額:6,400万円
    • 年間家賃収入:480万円
    • 年間運営コスト:130万円

手残り額を求める:480万円 − 130万円 = 350万円

実質利回りの計算:350万円 ÷ 6,400万円 × 100 = 実質5.5%

表面8.0%だった物件が、取得費と運営コストを踏まえると実質5.5%(▲ 2.5%) に変わりました。利回りの数字は、前提と仕組みを押さえて見ることで 本当の収益率が見えてきます。

利回りは“背景にある条件”まで見る

・3つの要素で利回りは決まる
・数字の大小だけでは優劣を判断できない
・なぜこの利回りなのかを説明できる状態が深い理解

利回りは、いくつもの要素が重なって初めて形になります。この“背景”まで理解しておくことで、表面の数字に惑わされずに判断できるようになります。

利回りの違いが生まれる要因

利回りは、次の3つの要素でほとんどが決まります。

  • 収入:家賃がどこまで実現するか
  • コスト:費用がどれだけ差し引かれるか
  • 投資額:取得総額がどれだけ膨らむか

表面と実質の差は、この条件がどこで・どれだけ変動しているかによって分かれます。その利回りを押し下げる主な要因が次のとおりです。

【要因例一覧】

要因影響補足
取得費(諸費用)▲ 0.5〜1.5%取得総額が増える
運営コスト▲ 1.5〜2.0%管理・修繕・税金など
空室リスク▲ 0.5〜2.0%入退去・募集期間
家賃下落▲ 0.5〜1.0%エリア需給・築年数
突発的な修繕▲ 0.5〜1.0%室内設備・外壁など

上記の数値は、国交省調査・管理会社データ・投資市場レポートを基にした一般的な変動幅です。これらの要因が重なるほど、表面利回りと実質利回りの差は大きくなります。

  • 要因が少ないとき:表面8% → 実質6%台
  • 要因が通常通り重なると:表面8% → 実質4〜6%台
  • 条件がさらに重なる場合:実質2〜3%台まで下がることもある

表面利回り8%から2〜3%台まで下がる可能性は、あくまで要因が複数重なった場合の“最大値”であり、利回りの“仕組み”を理解するうえで知っておきたい目安です。
利回りは数字そのものではなく、どの要因がどれだけ影響しているのかを意識しておくことが、投資物件を見るうえでのリスク対策にもなります。
表面利回りでも触れたように、利回り8%と5%を並べると大きく差があるように見えますが、実際にはそれぞれの物件が持つ条件によって、実質利回りが表面利回りに近い水準で落ち着くことがあります。

差が開きやすい物件条件(結果:実質は大きく下がりやすい)

次のような条件が揃う物件では、表面利回りと実質利回りの差が大きくなりやすい傾向があります。

  • 修繕費が重くなる要素が多い(築年・構造)
  • 空室期間が長く、稼働率が安定しない
  • 家賃下落リスクが高めのエリア
  • 取得諸費用がかさみ、総投資額が膨らむ
  • “満室・経費ゼロ”の前提から遠い運営状態

これらが重なると、表面と実質の差が最大で4〜6%ほど生じることがあります。
表面利回りが高いのではなく、差が開きやすい条件を持っていることにより、結果として”高い表面利回り”で設定されているケースが多いです。

差が“大きく開かない”条件(結果:実質が安定する)

一方、次のような条件を備えた物件は、表面利回りと実質利回りの差が小さくなる傾向があります。

  • 修繕費の上振れリスクが小さい建築構造
  • 強い需要があり、空室期間が短い立地
  • 家賃の維持力が高いエリア
  • 取得諸費用が適正で、総投資額が読みやすい
  • 管理・募集が安定しており、稼働がブレにくい

このような条件では、差は1~2%前後に収まり、実質利回りは安定しやすくなります。
表面利回りが低いのではなく、差が開きにくい条件を備えているからこそ、結果的に“低い表面利回り”でも十分に成立するのです。

実質差の縮まり方

表面8%の中古物件と表面5%の新築物件を、同じ評価軸(取得費、運営コスト、空室)で比較します。この3つの要素がどれだけ動くかで、実質利回りの差を確認します。

【中古物件:表面8%】

価格が抑えられて購入しやすいものの、築年が進んでいる分、修繕費が重くなりやすい物件です。稼働も安定しにくく、表面と実質の差が大きくなりやすいタイプです。

  • 取得費   :  0pt
  • 運営コスト :▲ 2.0pt
  • 空室    :▲ 1.5pt 

合計:▲ 3.5pt → 実質 4.5%

【新築物件:表面5%】

価格が高く初期負担は大きいものの、修繕の心配が少なく運営が安定しやすい物件です。空室の影響も受けにくいため、表面と実質の差が小さくまとまりやすいタイプです。

  • 取得費   :▲ 0.5pt
  • 運営コスト :  0pt
  • 空室    :  0pt 

合計:▲0.5pt → 実質 4.5%

あくまでも極端な例ですが、同じ条件軸で評価した時、表面利回りが8%と5%でも、物件の条件次第では、実質利回りが表面利回りと同水準に並ぶケースがあります。

利回りにおける最近の動向

2025年10月:全国の一棟アパート平均価格が8,859万円と調査開始以来の最高値を更新。
➤ 利回りは8.00%と横ばい。
地域で利回りに差:東京23区は5%台後半、首都圏は6〜7%台、地方主要都市は9%前後。
➤ 需要が強いほど表面は低くなる。
空室率・経費動向:中古マンションの修繕積立金は10年以上、上昇が継続。
➤ 実質利回りを押し下げる要因に。

編集長のコメント

利回りって、高い数字に飛びつきたくなるんですよね。実際、最初の相談でも、高利回り物件を持ってくる方が多いです。数字の見え方としては、高利回りを選ぶのは自然なんですが、そこで止まると誤解が生まれますので、利回りを説明するときはいつも、ここを噛み砕くところから始めます。
表面と実質でなにが違うのか、どこまでを数字に含めているのか──
これを最初にそろえておかないと、同じ物件を見ていても評価が噛み合いません。数字が正しいかどうかより、前提がばらばらなまま話してしまうことが問題なんですよね。
仕組みを理解していれば、不動産会社との話にも一段上の目線で入れます。「その数字、どこまで含めてのお話でしょうか?」と聞けるだけで、相手の説明の質も、こちらの判断の精度も変わります。
利回りは、数字の大小だけで語れるものではありません。どんな仕組みでその数字になっているかを押さえるだけで、見える世界は変わります。

「不動産投資は、仕組みの把握と逆算ですよ。」

まとめ

  • 表面と実質では前提条件が違う:表面はコストなしの理想値、実質は運営後の現実値。同じ利回りでも、意味は大きく変わります。
  • 要因を加えると数字は変動する:運営を想定した条件が揃うほど、投資の指針がはっきりします。
  • 利回り差が開く原因は物件の条件にある:修繕・空室・取得費で変わるのは自然な流れ。利回りの高さより、条件の安定度が材料になります。

利回りは、前提の置き方ひとつで数字が変わります。どのように作られた利回りかを理解することで投資に対する判断力が上がります。

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この記事を書いた人

PropFP編集長のアバター PropFP編集長 宅建士 × CFP®

不動産業界15年
宅地建物取引士
CFP®(Certified Financial Planner™)

不動産の仕入・新築開発販売・リフォーム再販・投資用仲介・賃貸管理・隣地調整など、実務の川上から川下までを幅広く経験。

「不動産の知識だけでは、お客様を守れない」
その実感から、不動産 × お金 の両側面を正直に伝えるメディアとして PropFPを運営。
不動産の良い面と注意点の両方を踏まえて、落ち着いて判断できる情報を届けています。

■ PropFP = Property(不動産)× Financial Planning(資金計画)

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