相続で不動産が共有名義になると、誰が何をするのか曖昧なまま時間が過ぎることがあります。維持費の負担、管理の責任、売却時の合意形成。放置すれば、次世代へのリスクが大きくなります。共有状態をどう扱うかは、最初の動き方でほぼ決まります。
結論:関わり方を決めた先に共有の解消がある
相続不動産が共有名義になったとき、まず必要なのは各共有者の関わり方を整理することです。
- 共有者の条件を整理し、役割を配置する
- 誰がどこに住んでいて、どんな知識や時間があるのか。これを可視化した上で、共有を続けるリスクを確認します。そして役割を配置し、期限を設けて動きます。
- 分割の方法を選び、解消を実行する
- 期限が来たら、共有者の条件に合う分割方法を選びます。費用と進め方を把握した上で決定し、実行の役割を配置します。
この流れで進めた先に、共有の解消という合理的な選択が見えてきます。関わり方を決めることが、解消への道筋を作ります。
共有直後にやるべき現状把握
共有名義になった時点で、まず押さえておくべきは、共有を続けることのリスクです。
- 次世代に相続が発生すると、共有者がネズミ算式に増える
- 共有者の誰かが認知症や病気になると、意思決定ができなくなる
- 売却や大規模修繕に全員の同意が必要で、1人でも反対すれば進まない
- 維持費や税金の負担が続き、誰が立て替えるかで揉める
- 放置すると管理不全物件になり、近隣トラブルや行政指導のリスクがある
これらのリスクを避けるには、共有を解消する方向で動く必要があります。そのための第一歩が、各共有者の条件を整理することです。
役割を決めるために必要な条件は、居住地、知識、時間、資金の4つに絞って考えます。
条件の整理表
まずは、相続人ごとに以下の4項目を書き出します。
物件が複数ある場合は、物件ごとに条件を整理する必要があります。まず各物件の基本情報を記載し、その下に相続人の条件表を作成します。
【物件A】
住所:○○県○○市○○町1-2-3
種類:戸建(居住用)
建物名称:—
備考:築35年、空き家状態、庭の管理必要
| 共有者 | 居住地 | 不動産 知識 | 時間的 余裕 | 資金的 余裕 |
|---|---|---|---|---|
| 長男 | 物件から車で20分 | 実務経験あり | 平日対応可 | 住宅ローンあり |
| 次男 | 県外 (新幹線で2時間) | なし | 土日のみ | 貯蓄に余裕あり |
| 長女 | 物件と同じ市内 | なし | 育児中で不定期 | パート収入のみ |
居住地:現地対応が必要な場面でどれだけ動けるかに直結します。物件の鍵の管理、近隣対応、業者との立ち会いなど、足を運ぶ頻度が高い作業があります。
不動産知識:判断材料を持ち寄れるかどうかです。売却相場の調べ方、登記の読み方、税制の基礎知識など、誰かが持っていれば全体の判断速度が上がります。
時間的余裕:手続きや連絡の窓口を担えるかに関わります。平日に役所や金融機関に行けるか、電話対応ができるかが重要です。
資金的余裕:維持費や修繕費の立替が可能かどうかです。固定資産税や火災保険、急な修繕が発生した際、一時的に立て替えられる人がいるかで動きやすさが変わります。
確認する場の作り方
この条件を確認するタイミングは、相続財産の全体像が見えてきた段階です。物件の所在や状態、相続人の範囲が把握できたら、全員が集まれる日を設けます。
対面が難しければ、オンライン会議でも問題ありません。大事なのは、全員が同時に参加して、同じ情報を共有することです。
表を作成する際は、その場で各自に発言してもらいながら埋めていく形が適しています。誰か1人が事前に作った表を見せる形だと、「もう決められている」という印象を与える場合があります。全員分を埋め終わったら、表を写真に撮るか、コピーを全員に配ります。後から「そんな話は聞いていない」という齟齬を防ぐためです。
全員が同じ表を持っている状態が、役割を決める基準になります。この先、誰がどの部分を担うかを話し合う際、この表に立ち返ることで、押し付けや偏りが生まれにくくなります。
役割設計と暫定期間
条件が整理できたら、次は役割の配置です。ここで重要なのは、「誰がどの役割に向いているか」を条件から読み取ることです。無理な配置は、長くは続きません。
役割配置の例
先ほどの条件表をもとに、役割を振り分けます。
| 共有者 | 担当する役割 | 理由 |
|---|---|---|
| 長男 | 判断材料の整理 書類手続き | 不動産知識あり、平日対応可 |
| 次男 | 資金管理・立替 | 貯蓄に余裕あり |
| 長女 | 現地対応 | 物件と同じ市内 |
現地対応:物件の鍵の管理、近隣からの連絡対応、業者との立ち会いなどです。長女は物件と同じ市内に住んでいるため、急な対応が必要な場面でも動けます。
書類手続き:役所や金融機関への対応、郵送書類の管理などです。平日の日中に動ける長男が担当します。
判断材料の整理:売却相場の調査、登記内容の確認、税制の確認などです。不動産の実務経験がある長男が、書類手続きと兼務します。
資金管理・立替:固定資産税や火災保険の支払い、急な修繕費の立替です。貯蓄に余裕がある次男が担当し、後日精算します。
期限設定の考え方
役割を配置したら、次は期限を設定します。先に確認した共有名義のリスクは、時間が経つほど現実化します。
次世代への相続、共有者の高齢化、物件の老朽化は待ってくれません。
暫定期間は、共有の解消に向けた準備期間です。期限を設けずに共有を続けると、そのまま放置される可能性が高くなります。
期限の長さは、物件の状況や共有者の事情によって変わりますが、1年から2年が目安です。この期間で、解消の判断材料を集めます。
- 役割分担が続けられるか(負担の偏り、担当の変更)
- 維持コストが見合うか(固定資産税、修繕費、管理の手間)
- 共有者の事情が変わっていないか(転職、病気、資金繰り)
- 物件の状態はどうか(老朽化の進行、市場での売れやすさ)
これらを確認した上で、期限到達時に、このまま共有を続けるか、解消するかを判断します。役割が回らない、維持費が重い、事情が変わったといった材料があれば、解消に踏み切る根拠になります。
そして、期限が来たら次は、解消の方法を選ぶ段階に入ります。
分割方法の選択と実行
期限が来たとき、「解消する」という結論が出たら、そこから先の道筋を具体的に描いていくことで、実行まで迷わず進めます。
分割方法の比較
共有を解消する方法は、現物分割、代償分割、換価分割の3つです。どれを選ぶかは、共有者の条件と物件の状況によって決まります。
| 分割方法 | 適している条件 |
|---|---|
| 現物分割 | ・土地が広く、分筆可能 ・全員が土地を持ちたい |
| 代償分割 | ・誰か1人が引き取りたい ・その人に資金力がある |
| 換価分割 | ・全員が現金化を望む ・物件に思い入れがない |
現物分割:土地を測量・分筆して各共有者が独立した所有権を得る方法です。建物が存在する場合や、分筆すると接道義務を満たせなくなる土地では適用できません。
代償分割:特定の共有者が物件の所有権を取得し、他の共有者には持分相当額を金銭で支払う方法です。物件を取得する人には、代償金を支払うための資金が必要になります。
換価分割:物件を第三者に売却して現金化し、売却代金を持分割合に応じて分配する方法です。売却価格の設定や売却時期について、事前に共有者間で合意を形成しておく必要があります。
実行に必要なこと
各分割方法で必要となる費用項目、期間は以下のとおりです。
| 分割方法 | 主な費用項目 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 測量費 分筆登記費用 司法書士報酬 登録免許税 | 2~4ヶ月 |
| 代償分割 | 不動産鑑定費用 司法書士報酬 登録免許税 不動産取得税 | 1~3ヶ月 |
| 換価分割 | 仲介手数料 司法書士報酬 各種税金 諸条件費用 | 3~6ヶ月 |
現物分割:土地家屋調査士に測量を依頼し、隣地との境界を確定させる必要があります。境界確定に隣地所有者の立ち会いが必要な場合、日程調整に時間がかかることがあります。分筆後は、司法書士がそれぞれの土地について所有権移転登記を行います。
代償分割:代償金の算定が最初の作業です。共有者間で評価額に合意できない場合、不動産鑑定士による評価を取得します。代償金の支払いは一括が原則ですが、分割払いとする場合は、共有者間で金銭消費貸借契約を締結します。所有権移転登記は司法書士に依頼します。
換価分割:不動産業者の選定から始まります。査定を複数社に依頼し、売却価格の目安を把握した上で、媒介契約を結びます。売却活動中も共有者間での定期的な情報共有が必要です。決済時には司法書士が立ち合い、所有権移転登記を行います。売却代金は決済後、持分割合に応じて分配します。
役割の配置例
解消方法が決まったら、実行フェーズの役割を配置します。選んだ方法によって、必要な作業と担当が変わります。
現物分割の場合:
| 役割 | 担当者 | 作業内容 |
|---|---|---|
| 測量・分筆の手配 | 長男 | 土地家屋調査士の選定 見積もり取得 立ち会い日程調整 |
| 費用の立替・管理 | 次男 | 測量費・登記費用の立替 共有者への精算 |
| 隣地所有者との調整 | 長女 | 境界確定の立ち会い依頼 日程調整 |
現物分割では、現地での立ち会いが複数回発生します。地元に住んでいる共有者が調整役を担い、資金余力のある共有者が費用を立て替える形が現実的です。
代償分割の場合:
| 役割 | 担当者 | 作業内容 |
|---|---|---|
| 物件取得 代償金支払い | 長男 | 不動産鑑定士の手配 代償金の準備 司法書士との連絡 |
| 評価額の確認 | 全員 | 鑑定結果の確認 代償金額の合意 |
| 契約書類の確認 | 全員 | 金銭消費貸借契約(分割時) 登記書類の確認 |
代償分割では、物件を取得する共有者が主導して進めます。他の共有者は、評価額と代償金額の妥当性を確認する立場になります。
換価分割の場合:
| 役割 | 担当者 | 作業内容 |
|---|---|---|
| 不動産業者との窓口 | 長男 | 業者選定・査定依頼 媒介契約締結 売却活動の進捗確認 |
| 情報共有・合意形成 | 全員 | 売却価格の決定 内覧対応の可否 価格変更の判断 |
| 現地対応 | 長女 | 内覧時の鍵の受け渡し 物件の状態確認 |
換価分割では、売却活動中の意思決定が頻繁に発生します。窓口担当者が進捗を共有し、価格や条件について全員で合意を取りながら進めます。
どの分割方法を選んでも、全員が何らかの役割を担うことで、「自分も関わった」という納得感が生まれます。誰かに任せきりではなく、全員で解消に向かったという事実が、共有者間の信頼にもつながります。
編集長のコメント
相続が発生すると、10か月以内に相続税の申告と納税を行う必要があります。この期限は、税金の話だけでなく、不動産の扱い方を考える上でも、一つの区切りになります。
以前、この申告期限を意識しながら、ご兄弟お二人で相続の整理を進めていた方から相談を受けたことがあります。まとまった現金と、複数の不動産があるご家庭でした。
弟の方は、不動産の管理や手続きに慣れていて、業者対応や書類の整理も一通り担っていました。一方で、兄の方は仕事が忙しく、現地対応や細かい実務に関わる余裕は多くありませんでした。
話し合いの中で、最初に確認したのは、「どれを誰が持つか」よりも、「この物件を誰が運用するのか」という点でした。賃貸管理、修繕対応、税務処理など、やることを一つずつ並べていくと、自然と役割の重さが見えてきます。
この段階で、居住地、時間、実務対応力、資金余力を整理しました。できる・できないを切り分けるのではなく、現実的に担える範囲を並べる形です。その作業を通して、生活との距離感や負担の偏りが見えるようになってきました。
その整理をもとに、何度か話し合いを重ねながら、不動産は弟の方、現金は兄の方という方向性が浮かび上がってきました。どちらかが無理をする形ではなく、役割と負担の性質に合わせた分け方です。
形が固まりかけたあとも、「この配分で負担が偏らないか」という確認は、申告期限まで続いていました。
条件と役割を先に整理していたことで、お互いに無理がないかを確かめながら、最後まで進めることができ、ご兄弟は共有という形を選ばずに整理を終えています。
相続の整理は、分け方よりも、分ける前の関わり方で結果が変わる場面が多いと感じています。
「やること全部並べたら、誰が持つか自然に見えましたね。」
まとめ
- 共有のリスクを確認し、各共有者の条件を整理する。
- 役割と期限を設定し、解消への準備期間を作る。
- 分割方法を選び、実行の役割を配置する。
共有の関わり方を明確にすることが、次世代への負担を残さない準備になります。
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